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夕月夜 二章(11話)
「え、あのっ、あ…アレはその、すごかった…けど、でも、どんなのかは、暗くてよく見えなかったし…」
「…暗くて?」
鴫の無詠唱の大技は朝だったはずと、ルリは首をかしげる。
「て…言うか、オレ怖かったから、だからっ、抱いてとか…。ホントはそんなつもりなかったのに、その…中に入るなんて思わなかったし」
「だ、抱いてって…、中…」
噛みあわない話の理由に気付いたルリの顔が引きつり、鶫以上に頬がみるみる赤くなってゆく。
「でも、いきなりってゆーか、最初は、ゆっくり…ヌルって感じで、熱くなって、ドーンは…えと、最後のほうに…」
「な、な、あっ…」
太腿から耳の先まで真っ赤にしてふるふると小刻みに震えていたルリが、やがて爆発したように叫んだ。
「あんた何言ってんのよ!!!!」
「だあっ!!!」
いきなり突き飛ばされた鶫は素っ頓狂な声をあげて廊下に転がった。
「なっ、何すんだよっ!!?」
「あっ、あたしは戦闘訓練のこと言ってるのっ。そんな、鴫くんの…あ、アレがどうかなんて聞いてないわよ!!」
ルリの言葉に鶫は目を丸くして、ようやく自分の勘違いに気付いた。
「え、だ、だって、ハメ…とか、言うからっ」
「そんなことしてたなんて知るわけないじゃない!!」
(あのバカっ!! 戻ってきたら思いっきり痛く治療してやるんだから…!!!)
脳裏に浮かんでくる想像をかき消すように、ルリは心の中で叫んだ。
「き、聞き方が悪いんだよっ」
「また、あたしのせいなわけ!? あんたが勝手にしゃべったんでしょ」
そう言い合っている二人の背後から、ゆらりとひとつの影が近づく。
「いつの間に仲良くなったんですか、ふたりとも」
「鴫ちゃ…」「鴫く…ん」
待ちわびたその声に、二人は揃って顔を上げた。振り返ると、いつの間にか黒い着流し姿の鴫が立っている。が、鴫の顔を見た途端にこれまでの良からぬ妄想と重なり合い、二人とものぼせた様に真っ赤になって硬直してしまった。
- [2009/04/26 08:15]
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夕月夜 二章(10話)
「ねぇー、鴫ちゃんまだぁ?」
廊下から両脚をぶらぶら投げ出して気だるそうに尋ねる鶫に、ルリは少し苛立っていた。
「まだ!何回聞くのよ。おとなしく待ってて」
(遅いなぁ、鴫くん…)
予定の時間はもうとっくに過ぎている。ふつふつと湧き上がる不安の影を面に出さないだけで精一杯だというのに。封鎖された部屋の中で何が行われているか知っているルリにとっては、何も知らないでいる鶫がうらやましくも疎ましくも思える。
「だってさぁ、天気いいんだもん。眠くなるー」
「キミねぇ…」
少年の随分と無邪気で呑気な振る舞いに、ルリは溜め息をついた。むしろ寝てくれた方が有難いのだが。見ればレポートをしっかりと握り締めているあたり鴫に会うのを心待ちにしているようで、これでは怒る気にもならない。
(それにしても、昨日の訓練うまくいったって聞いてたんだけどな。鴫くんに騙されて相当怖い目に遭ってるはずなんだけど。昨日の今日で、どうしてこうも緊張感がないのかしら)
「昨日のは、堪えてないわけ」
「へっ!? き、昨日のコト…知ってるの?」
ビクッとして固まる鶫。思いがけず良い反応にほんのり気分が高まったルリは、ここぞとばかり得意そうに続けた。
「もちろん知ってるわよ。鴫くんに、はめられたでしょ」
「なっ!!! は、は、ハメ…られっ」
真っ赤になって慌てるあたりかなり怖がったのだとルリは確信して、すこしくらいからかってもいいだろうと意地悪っぽく聞く。
「で、どうだったの?」
「どうって、そんなの言えるわけないじゃん!」
「なんでよ、恥ずかしがることないじゃない。あ、そうだ、見せてもらったでしょ、鴫くんのあれ」
「アレって…!!」
鶫の頭の中を、鴫の顔がぐるぐるとまわり始める。月明かりで見た鴫の裸体でいっぱいに埋め尽くされてゆく。
「すごかったでしょ、いきなりドーンって」
(ドーン…!!!)
鴫で満たされたあの感覚が呼び戻され、ビクンと肩をすくませる鶫。膝をもじもじとさせながら、しどろもどろになりながらも言葉を繋ぐ。
- [2009/04/25 08:34]
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夕月夜 二章(9話)
「ぐっ、くそっ!! ええい、うるせえ…黙れっ、黙れぇえっっ!!!」
(鵆…!!)
男の中に、さっきまでとは違う気配を感じて、鴫は顔を上げた。
「うぐっ、うおおぉぉおお!!」
手足を激しく痙攣させながら天を仰いで絶叫し、直後、糸が切れたように膝から崩れる男の身体を、鴫は慌てて抱きかかえた。
「鵆…!鵆っ!!!」
鴫の腕の中で弛緩した青年の身体がその声にわずかに反応した。
「……鴫?」
「ええ、ボクです」
先程までとは別人のように青年は穏やかな顔に戻ったがひどく衰弱した様子で、うっすらと開けた瞳が焦点の合わない様子で宙を彷徨う。
「ああ…鴫、…お前の声が、聞こえたんだ」
ようやく鴫の顔を見定めた鵆は声を絞りだし、うっすらとはにかんだ。が、ふと胸元に目を落とすと、見るみるうちになんとも悲痛な面持ちになった。
「ボクなら大丈夫ですから。貴方の、為なら」
鵆の心情を察して気丈にそう言った鴫だが、彼もまた、表情を崩すことはできなかった。
(こんな言葉、余計に傷つけるだけなのに。今は、これしか…)
「鴫、…すまない」
見るに耐えず、鵆は目を伏せた。
戻ったばかりの重ったるい身体はまだ彼の思うように動かなかったが、ふと奇妙に生温い嫌な感触にぞくりと冷たいものが背筋を走った。手のひらをなんとか持ち上げて、微かな蝋燭の灯りに翳す。ゆらゆらと揺れる視界の中で、自分の指先はねっとりと赤く染まっている。
「あぁ、この手で、俺は…」
傍らに寄り添ってくれている鴫に手を伸ばすと、いまできる限りの力で、きつく抱き寄せた。
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- [2009/04/23 19:49]
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